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エントロピー増大の法則と精神障害と芸術
エントロピーとは「無秩序な状態の度合い(乱雑さ)のこと」を示し、その増大の法則とは「物事は放っておくと(外からエネルギーを加えないと)乱雑・無秩序・複雑な方向に向かい、自発的に元に戻ることはない」、「孤立系における自発変化ではエントロピーは必ず増大する」ということになります。そして、その増大の方向は無秩序化と同時にエネルギーの量・質を低下させる方向でもあるのです。
この視点で精神障害をみると、統合失調症やうつ病の症状において思考が混乱して社会生活に支障をきたし、自閉的になる等はまさに精神のエントロピー増大を示しています。孤立系という言葉も上に出ていますが、孤独になることや閉鎖的環境も当然よくありません。
それに対処するのに、病気ですから薬物療法は当然必要です。しかし、それだけでは極めて不十分で、それをカバーするようなエネルギー(マンパワー)の投入が必要になります
ここで“芸術”が出てきます。どうしてか?
芸術作品は製作者が注ぎ込む感情、蓄積された思考、受けた影響の生き生きとした記録であり、多種多様なエネルギーの貯蔵庫なのです。
その芸術に触れること=そのエネルギーを受け取ることで、魂が揺さぶられ、増大した精神のエントロピー を減少させ、心・魂に秩序・調和をもたらすのです。
この観点から、例えば、音楽について友人の向原寛・高知大学名誉教授の言葉を引用します。「音の醸し出す環境は人間形成の場にふさわしく、人の心を和ませるものである。もちろん、音色の耳に伝わっている間は必ずしも心浮かれる思いばかりではなく、時には厳しく、悲しく、恐ろしく、締めつけられる思いがあるであろうが、そのように心を揺さぶりながら、平衡に達すると言おうか、調和すると言おうか、そうなることが心の和であると思う。」
芸術はそれが存在するからといって、誰もがその意味や価値を受け取ることができ、心に調和がもたらされる訳ではありません。引き出すためには、やはりそれなりの努力、工夫、時間が必要です。そうして、作品と我々自身を同調させることによって、それを生み出したであろう波動のようなものを感じて、初めてそれに反応することができるのではないでしょうか。
その結果、作品に接している人の中に製作者のエネルギーが伝わり、エントロピーが減少して雑念が整理され、感情や思考の高まりを生じさせ、創造的な新しいイメージを生む可能性も広がるのです。
その意味で、国や自治体や企業が住民・子供たちに美しい環境や芸術に接する場・機会を日常的に提供することには極めて重要な意味があります。そこでの出会いが私たちにどれほど大きな恩恵を与えてくれるか…よい刺激を受け、心が広がり、さらなる芸術を生むきっかけは、このような時代にあって、まだまだ足りないと思うのは私だけではないでしょう。
すぐれた芸術は、新たな芸術、文化の母となり、私たちを励ましてくれ、それをサポートする努力以上の未来を与えてくれるのです。